受験生・高校生

自律的な取り組みにより〝強い佐賀大学〞をめざす〜ビジョンの狙いや意義をふまえた主体的な改革を全学で推進

この記事は株式会社進研アド発行
「Between 大学改革に役立つ高等教育情報誌」2021年5-6月号No.297に
掲載されたものを転載許可を得て掲載しています。
取材・文/仲谷宏

佐賀大学
●1949年開学▼6学部6研究科、学生数約6600人▼2016年4月に、文化教育学部を改組し「教育学部」と「芸術地域デザイン学部」を設置。2019年4月に理工学部と農学部の改組を行う▼THE世界大学ランキング2021/1001+位、同日本版2021/=77位

改革の羅針盤となるビジョンを策定

 国立大学では、2022年度から第4期の中期目標・中期計画がスタートします。それに先立ち本学は、2020年に「佐賀大学のこれから―ビジョン2030―」を発表しました。
 この先10年は、18歳人口が減少し、予測困難な時代が続きます。これを生き抜くために本学は、「本学に関わる人々が誇れる大学」、受験生に限らず学問を追究する人々から「本学で学びたいと選ばれる大学」、そして「地域社会から期待、信頼される大学」になるというビジョンを描きました。
 この実現には、教職員の改革への自律的な参画が欠かせません。というのも、他律的な姿勢では手段が目的化し、本質的な改革の実行は困難だからです。教職員自身が実現したいと思うことであれば、リスクがあっても挑戦し、創意工夫を凝らして主体的に課題の解決に当たるものです。
 こうした姿勢は、ビジョンの狙いや意義を理解し、それを自らの羅針盤とすることで生み出されます。それには、具体的な計画や事業、取り組みなどを検討する過程で、何度もビジョンに立ち返り、読み返すことが欠かせません。本学では、第4期が始まる2022年度までを準備期間と位置付け、全学組織「ビジョン2030実現プロジェクト」を通して、ビジョンの浸透と、環境整備、体制づくりに取り組んでいます。
 その一方で、動き出している取り組みもいくつかあります。

大学をよくするために入試改革を推進

 すでに自律的な取り組みが形になりつつある例としては、入試改革を挙げることができます。
 本学はこれまで、任意提出の申請書で主体性等を加点評価する※1「特色加点」や、思考力重視の選抜を行う※2「佐賀大学版CBT」の導入など、積極的に入試改革にチャレンジしてきました。これは、国が進める改革に対応するだけでなく、入試で大学をよくしたいという本学独自の狙いを実現するために取り組んできたことです。
 2011年にアドミッションセンターの責任者に就任した私は、入試の成績とは関係なく大学で活躍する学生を目の当たりにして、本学で学ぶ意欲の高い学生や、入学後に伸びる力を持った学生を選抜するしくみを開発し、入試で大学をよくしたいと考えるに至りました。その思いを形にすべく、アドミッションセンターの教職員と共に、7年近くにわたり試行錯誤を繰り返してきました。
 その結果、例えば特色加点では、利用者のほうが未利用者よりも入学手続き率が高いことが見えてきました。本学で学ぶ意欲の高い学生が、そのしくみを利用するなど、「選ばれる大学」の実現に向けて、徐々に成果が出始めています。
 もちろん、受験生から選ばれるには、入試だけでなく教育の改革も欠かせません。本学では、主専攻以外の他分野を、地域との関わりの中で学ぶ「インターフェース科目」を全学教育の中に設けて、広い視野や考え方、実践力の養成に努めています。さらにその取り組みを発展させて、副専攻認定書が取得できるコースも設置しました。データサイエンスや農場での実践栽培、英語コミュニケーションなど、多様なプログラムがあり、例えば、主専攻の経済に農場での実践栽培を組み合わせると、生産から流通まで農業経営を一貫して学ぶことができます。さらに英語コミュニケーションを加えると、海外にも視野を広げることができます。
 学生の成長実感も重要です。現在、「ラーニング・ポートフォリオ」に学生が身に付けた能力を可視化するツールを組み込み、自分の成長を一目で確認できるシステムの構築を進めています。

課題を探ることから始める地域連携

 地域連携では、自律的な関係の構築に着手し始めています。
 地域との共同研究は、「地域社会から期待、信頼される大学」になるために欠かせない活動です。例えば佐賀県とは、再生可能エネルギーに関する研究プラットフォームを構築し、海洋エネルギーの利用などに関する研究開発を進めています。
 しかし、今までの共同研究は地域の要請を受けて行ってきたものです。今後は、こちらから地域が抱えている課題を聞いて、その解決を図る連携を強化します。
 これまで国立大学では、国と大学の間で活動評価が行われてきました。第4期からは、地域の期待にどれだけ応えられたかを、地域の人に評価してもらうことが重視されると考えています。そのため、地域に対して何ができるかを探し出し、自学への期待を高める必要があるのです。
 例えば教育の分野では、県教委や学校に現場の課題を聞いて回り、その課題に対応した専門教育の実施を計画しています。地域のニーズに密着した人材育成で、地域の期待に応える考えです。

IRに基づく正しい評価と意思決定

 自律的な取り組みを支える基盤としては、IRが重要になります。改革の成果を客観的に正しく評価することが、「誇れる大学」の実現につながるからです。
 IRは、ガバナンス上も大切です。意思決定においては、学長のリーダーシップは欠かせませんが、属人的な判断や、情報不足による誤った判断は、組織を間違った方向に導きます。それを防ぐには、IRのデータを一部の人が利用するのではなく、全教職員が利用できるようにする必要があります。そのためのシステム環境の整備を今後進めたいと考えています。そして、誰もが正しい情報に基づき正しい判断を下すことを、組織の文化として根づかせていきます。
 第4期が終了する2027年度には、今、本学の経営のかじ取りをしている中心メンバーは、私も含めて世代交代していることでしょう。未来の世代に、自律した強い組織である佐賀大学を引き継ぐことが、現執行部の責務です。未来に対する責任を果たすため、果敢に改革を進めていきます。

*1 高校時代の活動や実績などが、アドミッション・ポリシーや、入学後の学修とどう関係するかを記入した申請書を、加点評価するもの。提出は任意で、ボーダーライン層の選抜で利用。
*2 思考力・判断力・表現力等を評価するための動画を用いた出題や、タブレット機能を活用したテスト。CBTはComputer Based Testingの略。

この記事は株式会社進研アド発行
「Between 大学改革に役立つ高等教育情報誌」2021年5-6月号No.297に
掲載されたものを転載許可を得て掲載しています。

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