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【SpecialContentsVol.32】インタビュー/農学部附属アグリ創生教育研究センター 江原 史雄 准教授

家畜が人を癒す 「アグリセラピー」動物との新しい関係に注目を

家畜をアニマルウェルフェアの視点で研究

農学部「アグリ創生教育研究センター」では学生の農場実習をはじめ、佐賀県の農業に関わる課題や最新の植物工場を活用した農作物栽培技術など、農業振興への貢献をめざした研究活動を行っています。 本センターは生物生産科学部門(久保泉キャンパス)、健康機能開発部門(唐津キャンパス)、植物工場(本庄キャンパス)から構成されています。私は生物生産科学部門で畜産学・家畜飼養管理学を専門とし、その中で「アニマルウェルフェア(動物福祉)」に関して動物の情動やストレスケアの研究を行っています。

セラピーで子どものストレス値が低下

私自身の経験や実習で家畜と触れ合う学生の様子から、動物と過ごす時間がヒトの心身に与える影響は大きいと実感していました。家畜がストレスなくリラックスした状態だと側にいるヒトにも癒しを与えられるという相互関係があるとし、2013年に医学部、文化教育学部と連携した「アグリセラピー」のプロジェクトをスタートさせました。障がいのある子どもたちに本センターの家畜と触れ合ってもらい、セラピー効果を測定するのがゴールです。

▲アグリセラピーで動物と触れ合うと自律神経のバランスが良好に

農学部ではヒトと触れ合う家畜の適正評価を進め、セラピーとしての可能性を探り、医学部では効果の測定方法や必要なデバイスについて調査。そして2013年末から文化教育学部関連の特別支援学校や佐賀県内の障がい者施設の協力のもと発達障害やダウン症候群の子どもたちが来場、アグリセラピーを体験してくれました。ヤギやウシへ餌をあげたり一緒に散歩したりしましたが、動物たちも嫌がる様子などは見せませんでした。結果、参加してくれた子供たちの笑顔や発語数が増える等の変化が確認できただけでなく、一部の子どもでは、交感神経と副交感神経のバランスが良くなり、ストレスマーカーの値が下がることも認められました。

▲センターでは黒毛和種の繁殖のため母牛の飼育も

変わりゆく動物とヒトの関係

身近な生活の場に動物の存在が求められることが増えた現代において、動物とヒトの関係はさらに変化していくと考えられます。2000年代初頭に、動物とヒト及びそれを取り巻く環境は相互につながっていると包括的に捉え、「ひとつの健康」という概念を共有して課題解決に当たるべきという考え方(※)が提唱されました。さらに近年では、動物とヒトの環境状態は密接な相関関係にあるとする「ワン・ウェルフェア」という概念に進化しています。

▲トカラヤギの他、ポニーもいる

私がこれまで行なってきた研究は、これらの概念に収まる内容だと思います。3学部が連携した「アグリセピー」のプロジェクトは一旦終了しましたが、動物が重要な存在である今、こうした視点で動物と向き合うのも面白いのではないかと考えています。

※「One World- One Health (ワンワールド・ワンヘルス)」 : ワンヘルスとも呼ばれる。 2004年ニューヨーク・ロックフェラー大学で「人、家畜、野生動物の間で起こる感染症の統御についてのシンポジウム」開催。「マンハッタン原則」という行動計画が提示された。

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