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【Special Contents Vol.12】インタビュー/農学部 生物資源科学科 生命機能科学コース 濱 洋一郎 教授

ノリの健康増進機能を引き出し、新しい発酵食品を完成

排泄されていたEPA

EPAとは青魚などの食べ物から摂取できる必須脂肪酸の一つで、血液をさらさらにする効果があるといわれています。特定保健用食品や健康食品に用いられるほか、高脂血症の治療薬として認可されています。ノリを含む藻類は、魚類に替わる高度不飽和脂肪酸の供給源としても注目されています。 そこで乾ノリに約4%含まれる脂質の脂肪酸組成を調べたところ、EPAが全脂肪酸の半分以上を占めるという他に類を見ない特徴があることがわかりました。しかし、ノリに含まれる脂質は粘性の高いポルフィランという多糖で覆われていることなどから、EPAも人の体に吸収されず排泄されていると考えられています。

ノリと麹から発酵食品ができる仕組み

体が吸収する形態へ変化

ノリのEPAは脂質中にエステル結合して存在しています。これを人の体で利用可能な状態に変えることができないかと考え、光武進准教授と卒論学生の皆さんとともに研究を進めてきました。 最初は生ノリに食塩を加えて自然発酵させてみましたが、すぐに腐敗してしまいました。次にミリン粕や酒粕と乾ノリ、食塩を混ぜ合わせて発酵させるとEPAを含む脂質の形態がほんのわずか変化しました。そこで着目したのが、ミリン粕や酒粕の原料である麹です。麹を乾ノリ、食塩、水と混ぜて発酵させたところ、EPAの遊離(脂質中の結合から離れて遊離脂肪酸になること)が明らかに認められました。さらに、乾海苔の3分の1を占める粘性多糖ポルフィランが低分子化していること、この発酵品中のEPAは乾ノリ中のEPAとは異なり外部水溶液中に溶け出すことも確かめました。これらの結果、ノリのEPAが麹との発酵によって体内で利用できる状態に変化していることが強く推察されました。

味噌のようにさまざまな使い方ができるノリの発酵食品

ノリ加工品として期待

こうして私どもが完成させた発酵食品はそのままでも非常に美味で、また、お湯に溶いて味噌汁のようにしたり、生野菜に付けたりと幅広い食べ方が可能です。また、この発酵食品中の遊離EPAのように遊離脂肪酸を含む食品を食べると、抗肥満や抗メタボなどへの効果も期待できることも分かってきました。 ノリは佐賀県の基幹産業の一つですが、近年消費が伸び悩んでいます。乾ノリはそのままでも充分に美味しい食品ですが、健康増進機能を備えた加工品として定着し、ノリの消費拡大とノリを愛する人々の健康増進に貢献できれば幸いです。今後も研究を重ね、ノリの新たな可能性を追求していく所存です。

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